1999年9月15日公開/2002年12月10日加筆・訂正
ニュージーランドのユースホステルやバックパッカーズといった安宿には、ほとんどの場合、共同のキッチンとダイニングエリアがあって、泊まり客が持ち込みの食材で自炊することが出来るようになっている。
夕食どきともなれば料理や食事を楽しむ泊まり客で賑わうのが常だ。あちこちで旅の情報交換や四方山話に花が咲き、時にはアルコールが仲立ちになることもあって、リラックスしたムードが楽しいひとときとなる。
ある日ある宿のゲストブックに、ヨーロッパ某国からの旅行者のコメントを見つけた。
日本人の旅行者は英語喋れんし、
メシ食う時クチャクチャ音たてて不愉快だぜ
みたいなことが書いてあった。
英語のことはともかく、食事の際に咀嚼音をたててしまうのは、慢性的に鼻が詰まる症状(蓄膿症とか)の人などにはありがちなんではなかろうか。なにも日本人みんながみんな「メシ食う時クチャクチャ音たて」るわけじゃなし…
だから最初は「この某国人はあんまりアタマの良い人間ではないなぁ」などと思って読んでいた。
しかしこのコメント、考えようによってはいろいろと示唆的だったと思う。
日本人のマナーに対するこういったクレームは(最近はどうだか知らないけど)僕の滞在当時、けっこう多かったように思う。確かに、夕食時に限らず日本人のグループが、傍目にも「ちょっと盛り上がり過ぎかな」という場面には、あちこちの宿で出くわした。中には極めて常軌を逸したはしゃぎっぷりの連中もいたっけ…。せめて共同スペースでの夕食時くらいは、他の利用客を十分に気遣ってもらいたいものだなぁ、なんて、そのたびに感じたものだ。
※使った食器やキッチンの後片付けの几帳面さには定評があったということを、当時の日本人旅行者の名誉のために補足しておく。
しかし「その種の盛り上がり」のグループというのは、何も日本人に限ったことではなくて、とかく同国人が群れるとありがちな現象だったように思う。
ただ、僕ら「アジア人」が気を付けなくちゃいけないことがある。例えば、同じ「盛り上がり」を見せていても、それが地元の人達や、欧米人旅行者の場合は彼等はお互いに比較的寛容である。
ところが日本人を含めたアジア人に対しては、こうはいかないようなのだ。
同じ「はしゃぎっぷり」でも、「アジア人」がソレをすると、とにかく目に付くものらしい。
欧米人達は、意識こそしてないとは思うけど、より本能的な部分で
俺達の文化圏(と書いて、ここでは『縄張り』と読む)で
ふざけた真似しやがってこのヨソ者共が
みたいに感じているんだと思う。
というのも、地元の人達や欧米人旅行者同士はお互いにたいてい言葉が通じるし、生活習慣や価値観にも大きな違いが無いため意思疎通にほとんど不安が無い。つまり、文化的背景を共有しているということに基づく安心感があるようなのだ。
それに対し、「アジア人」は、文化的背景も異なるし、第一見た目からして全然違うし。自分達から見て異質なものに対して本能的に警戒心を抱くのは、生物としてむしろ自然だ。
そりゃ欧米人もアジア人も、ニュージーランドにあってはどちらもヨソ者には違いない。でもそんなわけで実際にはアジア人の方がはるかに「ヨソ者度」が高く見られるわけだ。
「被害妄想だ」と言われてしまいそうだけど、あながち否定も出来ないと思う。というのも、僕らだって、自分の縄張りでヨソ者に好き勝手されたらムカツクからね。
また、上記のような見方は、逆に欧米文化圏の人達に対する偏見だ、とも言われそうだ。でも、仕方ないよ。
「人類皆兄弟」とか言う人もいるけど、そんなの嘘だし。
言葉が通じる者同士でもうまくいかないことが多いのに、言葉が通じない者同士だったら尚更でしょうが。
ここで冒頭のコメントに戻りたい。
僕が考える、彼のコメントが示唆するものとは「旅先では謙虚に」ということ。
旅行者は、地元の人間からすればみんな「ヨソ者」。だから旅行者は、旅する国や地域の慣習を尊重しなくちゃいけない。少なくとも「尊重してますよ」という姿勢を彼等がわかるように示す。彼等の縄張りで、彼等をムカツかせたりするのは、得策とは思えませんから。
これはつまり、彼等の文化的背景を知り、慣習を尊重することが(旅をより実りあるものにするのはもちろん)一種の 自己防衛 になる、ということです。全部を知ることは到底かなわないにしても、ガイドブックの字ばっかりのページも一度は通して読んでおくくらいの手間はかけなくちゃ。
もっとも、「共同スペースでの夕食時には他の利用客を十分に気遣う」なんてのは、ガイドブック以前の 常識 だ。むしろ知識なんか無くても、常識だけで回避できるリスクの方が多いのかもしれない。知らず知らずのうちに周囲の敵意を増幅させる、これはコワイことですぜ。
ま、ナンボ謙虚になったところで、やっぱり過ちてしまうこともありますわな。そんな時には、旅行者という立場に免じてなんとか「寛容」な態度で接して欲しいでものですよね。それはつまり、「僕らの縄張りで僕らは、ヨソ者の過ちに寛容であるべきだ」ということです。
ことわざにも
「情けは人のためならず」
などと言いますし、
「自分が他人にして欲しいことを、まず自分が他人にしなさい」
って、どっかのエライ人も言ってますわ。
あと、やっぱり言葉は話せないより話せた方がずっと良いと思いますね。犬養毅じゃ無いけど(歳がばれるか)「話せばわかる」ことが多いし、現地で自力で情報を得ることで得すること、避けられる危険、多いですよ。
最後に"傍目にも「ちょっと盛り上がり過ぎかな」という場面には、あちこちの宿で出くわした。中には極めて常軌を逸したはしゃぎっぷりの連中もいたっけ"
んなもん、こんなとこ( ネット上 )でうだうだ言ってないで、
てめぇがその場で注意しやがれ
…その通りでございます。返す言葉もございません。だって僕も日本人だからネ。日本人的に「義を見てせざる」勇無き男です。