2020年07月28日公開



〜 はじめに 〜

東日本大震災の起きた2011年3月、「きっと長期戦になるから最低10年は主体的に復興支援に関わろう」と決心した。

そして同年6月、岩手県で復興支援ボランティアに参加したのをきっかけに、足繁くとまではいかないまでも、そこそこのペースで同県沿岸地方に通い続けていた。

そんな中、殊にここ数年は、自分のように普段遠くに住んでる個人が休暇取って現地に赴いて参加出来るようなボランティアの活動の範囲は狭まって来たと感じるようになっていた。

それに、依然「被災地」としてのいろいろな課題を抱えながらも、インフラ整備など政府や自治体の進める復興事業が進むにつれ、街並みや人びとの自立した営みといったものが少しずつ取り戻されつつあるようにも思えた。

特に個人的に強い印象を受けた出来事は、2018年の大槌町旧町役場庁舎の解体と2019年のラグビーWC杯の釜石市での試合開催決定、そして三陸鉄道の全線開通だった。

これらのニュースに、外部からの応援・支援が求められる場面はこれからもありうるにせよ、今や地域の人たちが新しい暮らし作りを主体的・自律的にリードしていくフェーズに確実に移行しつつあるのではないかという思いを強くしたのである。

同時に、ではこの先、自分自身は東北とどう関わり続けていくべきなのかということも考えた。もはや自分にとっては「復興支援」「ボランティア」ってのはもう過去の話で、これからもそのスタンスで付き合っていくってのは何かしっくりこない気がして。

そもそも「復興支援」でも「ボランティア」でも無いとして、それでも関わり続けたいと思っちゃうのは、やっぱり濃淡はあれどもあちこち関わり合いが出来てしまったし、行く末を見届けたい見守りたいという気持ちもあるからかな。

それに何よりけっこう気に入っちゃってのがあるんだよねー、特に岩手。

ボランティアの送迎バスの、新幹線の、釜石線の、そして三鉄の車窓越し…(テツかよ!)の風景、なんか上手くは言えんけど自分にとって「ほどほど良さそうな」感じがして。

ボランティアでもその後の訪問の折々にも「次、来た時はここ、ゆっくり寄ってみたいな」とか思う場所が多くて、大槌町なんかはレンタサイクルでぐるっと回ったりしたこともあったっけ。

ならば、いっそ一丁、気の済むまで歩いてみますか!ということで「みちのく潮風トレイル」の全踏破に挑むことに決めました。

もちろん一気に1,000q歩く(いわゆる「スルー・ハイク」)は無理なので、まぁ毎年、春秋1回ずつ、1回30km歩けば、1000km÷(30km×2回)だから…約16年で歩き切れるか。気ィ長い話だな。

でも、今、49歳。65歳までのライフワークと位置付ければ、まぁ悪くないよな。その間に少しずつ変わっていく東北の被災地の様子も間近に見る事も出来るだろうし、各地でローカル線の旅も楽しめそうだし(テツ…)。それにこれもライフワークであるニュージーランド・トランピングのための実地演習にもなるし良いことづくめだなー、と。

そんなわけで歩き始めた2019年11月。

今年4月に計画していた第2回目は、新型コロナウィルス感染症の世界的な流行に伴う国内移動の自粛要請もあって中止。なんとかこの秋には再開出来ないものかとなりゆきを見守っているところです。

なんにしても先の長い話ですが、行けるところまで行ってみよう。


〜「みちのく潮風トレイル」とは? 〜

みちのく潮風トレイルとは、青森県八戸市蕪島と福島県相馬市松川浦を結ぶ総延長1,025kmの長距離自然歩道だ。青森、岩手、宮城、福島の4県28市町村の主として太平洋沿岸の既存の道を繋いだルートから成り、令和1年(2019年)6月に全線開通された。

環境省が東日本大震災の復興支援として進めてきた「グリーン復興プロジェクト」の一つであり、この地方への国内外のインバウンド需要を喚起し、観光の振興=地域の復興に寄与することが期待されている。

東北太平洋沿岸ならではの自然美や暮らしや文化に触れつつ、今次、また過去においてこの地域を襲った地震や津波の痕跡に触れることで自然のもたらす豊かさと脅威を感じることが出来る。

公式サイト・環境省

みちのく潮風トレイル

解説参考・岩手県公式HP

長距離自然歩道「みちのく潮風トレイル」が全線開通しました!

なお、環境省がトレイルマップも発行しており、上記の公式サイトで閲覧・PDFでのダウンロードが可能。送料実費のみで郵送でも入手出来る(本稿見出しにも該当する区間の地図名を記載した)。


2019年11月1日(金)

予定通り16時に退勤。

新大阪発18:20の新幹線のぞみ46号で東京へ。駅の新幹線改札は駄々混み。まぁ俺も含めて三連休イブの華金だから無理もない。

東京まではやはり寝て過ごしてしまった。今週は連日激務だったからな。

国際興業バス「シリウス号」東京駅八重洲南口を定刻通り21:30出発。

2019年11月2日(土)

夜行バスは毎度寝付けないが、今回も。ついつい後席に遠慮してしまってリクライニング不足で。でもそこそこ眠れたか?(どっちやねん)

定刻(6:45)より大分早く八戸着。よく晴れて、そして寒い。

靴を歩き用のブーツに履き替える。JR八戸駅1階のドトールで軽く朝食。

JR八戸線7:13発・鮫行き普通列車。地元の高校生たちが白銀で降りてしまうと車内はガラガラに。

7:37鮫着。「鮫」、発音は「高低」だと思っていたが、車内アナウンスでは「低高」だった。海に居る「サメ」そのままの発音。どうでもいいか?

みちのく潮風トレイル(以下「MST」と略)は南下ルートだと事実上、鮫駅が歩き始めになるが、公式なトレイル起点は蕪島神社とされている。同駅から1kmちょっと歩く。

トレイル北端起点にて・後方に蕪島神社

【画像】トレイル北端起点にて・後方に蕪島神社

沖合に向けて突き出した小さな半島のてっぺんに建てられた蕪島神社とその周辺はウミネコのコロニーとしても知られている。

道中の安全を祈願すべく参詣するも社殿の再建工事中(2015年11月に火災で焼失したとのこと)で境内には入れず残念。

トレイル起点で記念撮影をするとスタートした。蕪島神社8:30出発。

ちなみにこのトレイル、英語表記では "Michinoku Coastal Trail" とされているので、アルファベット略は「MCT」とするのが正しいかも知れない。

ただ、なんとなく語呂が良くない気がするし、別にまんま「Shiokaze」でエエやんけと思うので、このHP上では「MST」と略すことにした。

大須賀海岸の北端9:30着。大休止。

大須賀海岸は波打ち際の硬い砂地を選んで歩いた。

名勝「淀の松原」は大正時代に地元の青年団が植樹したのが始まりとのこと。断崖上の木陰を海を眺めながら歩くのは気分が良い。折しも地元の皆さんが大勢で下草刈りをしていた。

種差海岸

【画像】種差海岸

種差海岸インフォメーションセンター11:30着。併設のカフェでサバサンドで早めのランチ。道路を挟んで向う側には海に向かってなだらかな芝生の斜面が広がっていて、あちこちに思い思いに過ごす人たちの姿が見える。

大久喜漁港13:05着。大休止。

今日は天気が良いからか、どこの漁港でも防波堤で釣りする人を多く見かける。家族連れも多し。

塩釜神社を経て14:15頃、階上町に入る。なお、大久喜〜大蛇間の県道1号線は歩道がなく、路肩も狭くて辛かったが、道沿いに空き家や廃屋が多くて退屈しなかった。

大蛇小学校の海嘯記念碑

【画像】大蛇小学校の海嘯記念碑

大蛇(おおじゃ)の集落に差し掛かる頃には、晩秋の陽も大分傾いてきた。昭和8年の昭和三陸大津波の教訓を後世に伝えるために建立された「海嘯記念碑」を見るために寄り道する。

この辺りの地形には海岸段丘の特徴がよく見て取れる。海岸線に沿って防波堤が伸び、防波堤の海側が漁港、陸側に県道が走っている。県道沿いの陸側には番屋(船小屋・漁仕事のための小屋)が並ぶ。番屋の裏手から段丘の急斜面がせりあがり、住宅地は段丘上に開けている。鉄道はその更に内陸側を通っている。

同碑はそうした住宅地の中、小学校の校庭の片隅に建てられている。しばし黙祷してから写真を撮って先を急ぐ。

三陸大津波記念碑と泊川神社を経てJR階上駅15:40着。早くも暗くなって来たし脚も痛くなって来たので今日はここまでとする。計画では種市(岩手県洋野町)まで歩くつもりだったが全然届かず。

階上駅16:10発の列車代行バスで種市まで(階上以南のJR八戸線は、この年の台風19号の被害で久慈まで不通となっていたため)。

今宵の宿は「マリンサイドスパたねいち」朝食付き\6,500/泊。トレイル・ウォーカー対象の割引特典があったけど利用せず。

大風呂とサウナを堪能してから近所の居酒屋へ。お疲れビールの美味いことよ。〆にホテルの食堂で軽く飲み直すとすっかり眠くなったので部屋に戻ってすぐ寝てしまう。

2019年11月3日(日・祝)

やはり寒いくらいの朝。ちなみに今回の4日間を通して最低気温は6℃、最高気温は14℃くらいだった。

結局二度寝して8時前までしっかり寝た。昨夜しっかり風呂しっかりメシ食ったので気分は良し。10時前にチェックアウト。

JR種市駅、駅員さんが駅舎をとても清潔に維持されていて好感が持てた。

今日は昨日の終点、階上駅まで戻ってトレイル南下行の続きを歩く。種市駅10:21発の列車代行バスで階上駅へ。

代行バスは〜観光バスが臨時で割り当てられたらしく〜乗降口の段差が大きくて特に高齢の乗客は乗り降りが大変そうだった。また、内陸の国道45号線を通るので海辺の景色が全然無いので鉄道ファン的にも残念。早く鉄道が復旧すると良いが。

階上駅を10:50に出発。駅の南の小舟渡(こみなと)浜通踏切を越えて海岸側へ。前述のように八戸線はこの先が不通になっており、線路が早くもオレンジ色に錆てしまっていて切なかった。

公式にはトレイルはここから内陸に方向を転じ、階上岳(標高739.6m)山頂に至り、再び小舟渡海岸まで下るというルートとなっている。

先日の台風19号でこの区間にも相当の被害が出ているという情報もあったし、なにより登って1日+下って1日はかかるルートなので、今回はスキップし別の機会にこの区間だけ歩きに来ることにした。

それに、まぁ正味、「公式ルートを余さず完全踏破」というような拘りは特に無いので、極力ロスを少なく南進の途を進められさえすれば、多少変則になっても気にしないつもりだ。

小舟渡浜

【画像】小舟渡漁港付近

赤石大明神

【画像】赤石大明神

階上灯台11:55着。記念撮影がてら小休止。

小舟渡漁港から小舟渡海岸の一帯は見晴らしも良く、この日歩いた中でも一番気分が良い区間だった。

小舟渡海岸の南端、川の流れ込みを渡り岩手県に入る。陸側と海側にひとつずつある「縣堺石」、どちらも見付けられた。

浜の鳥居、千人塚など、トレイルマップで紹介されているスポット一つずつにいちいち立ち寄ってみる。説明板など掲げられているところでは、いちいち全部目を通す。そしてときどき PokemonGO を起動させてみたりなんかもして(意外とけっこう"トレーナー"居るなぁ)。

トレイルの県道沿いには時折、別荘か研修施設と思しき空き家や廃屋が散在していた。そのたび足を止めて怪しまれない程度に物件(?)冷やかし。「宝くじ当たったら買い取って、ココはあんな風にあそこはそんな風に改装して」なんて隠居生活を夢想したりして。

廃屋

【画像】廃屋

13:10種市高校前の公園に到着。大休止。この頃になるとまた空模様が怪しくなって、しまいにはポツポツ雨粒が。

川尻川河口の前後は道路を離れ、太平洋を眺めつつ防潮堤の上を歩く。

もうすぐ種市。波間に見え隠れするウニの増殖溝を眺めつつ防波堤沿いを歩く。この辺りも海岸段丘の特徴が顕著で、陸側は切り立った斜面が続いている。種市漁港14:20着。

ウニ殻

【画像】ウニ殻@種市海岸

ひろの水産会館「ウニーク」に寄って軽くお土産購入。

JR種市駅15:00着。今回はここまでとする。時間的には次の玉川駅まで歩けそうだけど、天気ももうひとつだし暗くなるの早いしで。

種市駅15:36発の列車代行バスから階上駅で普通列車に乗り継いで、八戸16:52着。車窓から昨日歩いた区間をおさらい。天気も悪かったし既に日暮れであまり良い眺めとは言い難かったが、それでもやっぱり列車の車窓風景は楽しい。

駅のそばのお土産ショッピングモールでお土産をしっかり買い込んでから今宵の宿、駅前の「東横INN」にチェックイン。\5,900/泊。

とりあえず部屋でひと風呂浴びてから、近所の居酒屋で一人慰労会。地元のお客さんでなかなか流行ってる様子。しこたま飲み食いして満足して宿に戻る。酔いに任せてそのまますぐ寝る。

2019年11月4日(月・休)

今日も肌寒し八戸の朝。ギリギリまで寝てたので朝食は新幹線の社内販売の駅弁で済ませた。

帰りは八戸8:11発・はやぶさ10号と東京11:20発・のぞみ331号と新幹線を乗り継いで、14時前には新大阪に到着。まだ陽があるうちに西宮に帰着。

今回2日間の歩き実績まとめ。

1日目:鮫〜階上の約18kmを8時間、2日目:階上〜種市の約10qを約4時間でそれぞれ歩いたので合計28kmってとこか。途中の休憩や寄り道まで勘案すると、2.5km/hくらいのペースか?思いのほかアップダウンもあったからまぁまぁ妥当なセンかな。

でも今回はホテル泊ってこともあって、かなり軽めの装備(30Lのバックパック+ウェストポーチ)だった分、もう少し距離を稼ぎたかった。

そもそも、今回は計画では1日目で種市まで、2日目で陸中中野まで歩くつもりだったのだから。うーん、自己評価をもう少しシビアにして無理のない計画を立てないとな。次回への課題だな。

つづく