2023年7月30日公開



〜 これまで 〜

2019年秋に青森県八戸市をスタートし、岩手県の沿岸地域を南下中です。

昨年(2022年)11月上旬、さんてつ白井海岸駅から寄り道コースを採って内陸の鵜鳥神社に参詣、普代駅でゴールとしました。今回は普代駅を起点に海沿いを南下するのが順当とも思ったのですが、やはり出来るだけ本線コースをなぞっておきたいという想いもあって、前回、スキップした格好になっている白井海岸駅〜普代駅間の本線コースを歩くことにしました。

この2月、本当は新型コロナ禍の影響で延ばし延ばしにしていたNZ遠征を再開するつもりでいたのですが、仕事の状況が月〜金5日連続の年休取得を許さなかったので諦めました。購入済みの往復航空券を払い戻したことで予算も十分確保出来たし、NZに行けない分、少しでもMSTの行程を進捗させておこうと考えて、今回、初めての冬季ハイクに挑戦することにしたのです。

今回から、従来の環境省発行のガイドマップに代えて、NPO法人みちのくトレイルクラブ発行の「Hiking Map Book」を使用しています。

南北の基点から要所々々までの距離や、区間ごとの標高の情報などが充実しています。同じくトレイルクラブ発行の「DATA BOOK」と併用すると事前のプランニングには非常に有用です。

が、いかんせん版型が小さい(A5版)のと、高価(1650円/巻)なのが珠にキズ。なので見開きでA4にしたのをカラーでA3に拡大コピーして使うことにしました。こうすれば折り曲げたり畳んだり丸めたり書き込みしたりが気兼ねなく出来ます。なにより大きくて見易くなって老眼には助かる…

あと、環境省のものにはあった各地の見どころの簡単な紹介や解説は無くなりました。まぁそれらは、ネットで得られる情報の方が質量共に凌駕しているので問題はないでしょう。

なお、環境省のものは、この Hiking Map Book の発行を機に配布終了となったようです。最近まで同省のサイトからPDFをダウンロードするかたちで利用出来たので参考にしていたのですが、本項を書くにあたって再確認したところ、すでにダウロードのサービスも終了した模様です。


2023年2月23日(木・祝)

朝4時起床。寝たのが1時なので、3時間ほどしか寝れんかった。とにかく新幹線、盛岡まではひたすら寝ていこう。

明日の金曜日、職場のメンバーの休み希望が重なっちゃってて、かなり手薄になっちゃいそうだってんで、二、三日前に上長にも「なんとかなりませんか」と相談されてもいたので、正直なところ後ろめたさが無いではない。

ただ、そんな直前になって言われてもなぁ。ひと月も前に伝えて取った年休なんだし(まぁその時点ではまさかここまで忙しく且つあれもこれも重畳しようとは思わなかってなかったけど)。休み明けの惨状を思うと今からユウウツだ。今回はそんなこんなでテンション低めで出発。

例の如く、隣のファミマでモバイルバッテリーを借りてから駅に向かう。

明日を休みにして四連休にしたとおぼしき旅行客たち(自分もその一人であるが)で賑わう新大阪駅。盛岡までの往復乗車券をクレカで購入。オンライン予約しといた新幹線特急券も往復全区間分、発券。チケット関係はこれで全部確保出来たのでひと安心。

新大阪07:39発。車内ではひたすら寝ようと努めたが、眠れず。それでもただ何も考えずボンヤリと過ごしていると、東京に着く頃には結構回復したような気分になっていた。なにしろ今日は通い慣れたルートをひたすら列車に揺られて宮古に着ければそれで良いんだから気楽なもんだ。

東京駅は非常な混雑。売店のレジ待ちの列も長くて、買い物する気にならなかった。辛うじて飴ちゃんだけ買って、はやぶさ号に乗り換え。こちらもほぼ満席らしかった。東京10:20発。

予定通り昼過ぎに盛岡に着く。現在の外気温6℃。北上過ぎた辺りからか?雪景色になった。こんな盛岡見るのは初めてかも。

それにしても今日はやけに小さい子供連れの乗客が目につくなぁ、なんて思いつつトイレして早速お土産買って、弁当やお菓子を買って、13:13発のJR山田線に乗り継いで一路、宮古へ。

山田線の車内では持ってきた文庫を読んだり、ボンヤリと車窓風景を眺めるなどして過ごした。忙しない西宮での日常では得難い時間。

茂市を過ぎた辺りから沿線の残雪が目に見えて減った。この様子だと、明日歩く区間も積雪はそんなに無いかも知れない。

宮古に定刻15:07着。こんな早い時間に宮古に着いたのは初めてかも知れない。早速、宿へ。セントラルホテル熊安、素泊まり1泊6000円也。あー、やっとゆっくり横になれる。

それにしても、こうして宮古に着いてもなお、なんだかイマイチ気乗りがしてないと言うか、いや、歩くことは歩くし、準備も万端でどうやら天気も悪くはなさそうで、問題は無さそうなんだけど、ただやはり、明日の仕事の様子が気に掛かってる感じ。とゆーか、月曜出てったら問題山積みになってんだろうなとか、「あれはあーなってるからいいとして、こっちはこーなってたらそー手当てしなきゃだしなー」とかなんとか、気が付くと仕事のことを考えてしまってる。そんなのがホントにホント―に嫌だ。

とはいえ、そんなでも仕事で稼げていればこそ、こうして気ままに旅にも来れてる訳だから、要はバランスの問題なんだろうけど、その意味でここんとこホントに仕事に偏りすぎてるのも間違いないんで、ここは心を鬼にして「断固四連休!」って、そう自分で決めたんだから、踏ん切らなきゃ。踏ん切って今、この時間を楽しまなきゃウソってもんだろ…でも、やっぱりアレだけはあーしとかないとソレがこーだから…とかなんとか、無限にスパイラルする思考。まぁ難儀な性格だ我ながら。

17時半頃までベッドに横になって一休みして、それから念願の「笑びす」での夕飯呑み。久しぶりだったし、お店も休日にしてはのんびりムード(と、見えてただけか?)だったんで、長っ尻に飲ませてもらった。

ここまでなかなかエンジンかからない感じだったけど、ゆっくり飲みつつ大将や女将さん、カウンターの他のお客さんたちとかと話なぞしているうちに、かなりほぐれた気がする。やはり旅先では、地元のお客さんたちと近い距離で飲めるお店がベターだなと改めて思った次第。

スマホのバッテリーの減りが早いのが気掛かりだけど、ようやく明日から頑張れそうな気がしてきた。ホテルに戻って風呂入って就寝22時頃。

2023年2月24日(金)

朝5時半起床。

宮古の本日の天気予報は終日曇り。気温は最高7℃、最低0℃とのこと。

7時過ぎにホテルをチェックアウトして駅へ。今回も駅の立ち食いソバで朝食。めかぶとちくわ天ぷらをトッピングして530円也。

さんてつ宮古07:52発。小1時間で白井海岸駅着。運賃1370円也。

宮古を発った時にはちらほら居た乗客も、岩泉小本で数人が降りるとほとんどいなくなってしまった。1両編成のワンマン列車、ほぼ貸切状態。それにしても、なりゆきとは言え、このなかなかの秘境駅で3回も乗り降りすることになろうとは。

身支度を整え、白井海岸駅(SOBO/134.24)を09:15出発。

前回同様、力持漁港に寄り道。今日は誰もいなかった。

09:45、鵜鳥神社への寄り道ルートと本線ルートとの分岐に到着。車道の傍、カーブミラーの手前にMST標識「普代駅4.6km/堀内駅6.0km」(SOBO/135.86)あり。

標識は林の中を指向しているけれど、木々の間を覆う積雪には足跡ひとつない。地形と地図を照合して、だいたいの方向に進路をとって前方を凝視すると、MSTのマーキング等、なにかしらトレイルの存在を示すものが見付かるので、まずそこまで歩く。そこからまた次のマーキングを見付けて、それに向かって進む。これを繰り返して行くことになる。

トレイルの分岐(SOBO/135.86)

【画像】トレイルの分岐(SOBO/135.86)

ここで今回、新たに導入したモンベルの「チェーンスパイク」を履く。

いわゆる「軽アイゼン」というもので、今回のMSTを計画ているさなか、沿岸で結構雪が降ったというニュースを聞いて、なにかしらこーいったものがあった方が良さそうと思い、行きつけのモンベルストアで店員さんに相談して購入したもの。

こういった道具を使うのは生まれて初めてだったけれど、今回、この日と翌日の行程で大いに頼りになった。想像以上にブーツにしっかりフィットして、積雪の上でも安心して歩けるグリップ感。着脱も簡単だし、今後も同じような条件下で重宝しそうだ。

こうなると、トレッキングポールも合わせて使うのがモア・ベターかも…とも考えたけど、すぐに置き忘れたり失くしたりしそうなので、導入に二の足を踏んでいるところだ。

力持川を渡って斜面を登り始めると、じきに積雪は無くなった。それでもおそらくこの先も吹き溜まりや日陰がちな箇所には残雪があると予想して、スパイクは履いたままで歩く。

案の定、尾根筋に出ると、ところどころで残雪の区間に遭遇。結構深い部分も有ったりで、スパイクは大当たりだったなと一人ほくそ笑んだ。

が、しかし、やはり雪道はしんどい。しかも基本的にアップダウンの山道だから足腰には非常に堪える。そもそも、こんなスパイクなんかを履くのも初めてならば、雪上ハイクも初めてなわけで。

とはいえ、しょせん小中学校の裏山(地形図に拠れば最高地点は「宇留部山」標高181.9m)に過ぎず、昔は通学路として子供らが行き来してたって話だから、よもや日が暮れちゃうなんてことはあるまいから、とにかく安全第一、慌てず焦らず…と自分に言い聞かせながら歩く。

トレイル上の積雪に残された山の生き物たちの足跡に枯葉が落ちて、枯葉のトレイルマーカーみたいになってて、なんだか可笑しかった。

雪の上に落ちた枯葉の(日差しを浴びて枯葉の方の温度が上がることで)溶け込んでいるものもあったけれど、明らかに足跡のピッチ。鹿やウサギやタヌキとかかな?山の生き物たちもトレイルの方が歩き易いものと見える。

この尾根筋、マップブックには「道迷い(し易い)」との注記が付されているけれど、この「マーカー」に助けられたのか、全然困らなかった。

雪に枯葉のマーカー

【画像】雪に枯葉のマーカー

11:20、尾根筋に出て歩くこと約1時間で、普代小学校の裏手に下る沢の最上部に着く。MST標識「堀内駅8.0km/普代駅2.6q」(SOBO/137.90)。

ここからは沢伝いに下り。最初は有るか無きかだった流れも、下るにつれて流量が増え、足元は積もった落ち葉や土砂でところどころボグ状態。幸いここでもスパイクが効いてくれた。夏場は沢遊びも出来るくらいの流量があるそうだ。

砂防ダムを二つほど通過すると普代小学校の裏手に出た。ここでスパイクを脱いで小休止。

小学校の前の道路に出る。ここでちょうど正午。想定していたペースより1時間ほど遅れていて先を急ぎたいところではあったが、左折して海の方に出てみることにする。

普代水門を越えた先、普代川の河口部には白砂の砂浜(三陸沿岸としては珍しいのだそうだ)があり、海水浴場と芝生の広場や駐車場が「普代浜園地キラウミ」として集約・整備されている。今居る北岸側には海水浴客向けに公衆トイレ、シャワーの施設がある(多目的トイレだけ施錠されてなかったのでお借りした)。

震災前にはキャンプ場だったそうだが、現在は泊りのキャンプは不可とのこと。折角、砂浜に隣接して広々とした芝生の広場も設けてあるのになんか勿体ないような。平日の昼休みということで、周辺にお勤めの人だろうか、マイカーで乗り付けてお昼食べたりシート倒して昼寝したりしてた。

ちなみに愛称「キラウミ」というのは地元の中学生が命名したとのこと。今日の空模様はちょっとそぐわなくって残念だ。

来た道を戻り、普代村の市街部に入る。

お昼どきだったし、前回は食べ損ねた「豆腐田楽」が一番のお目当てだったのだけど、時間が早かったのか「まだ焼けてない」とのことで残念ながら諦めた。けど、これも人気という上神田精肉店のカレーパンは買えた。お店の軒先に置いてくれてあるベンチに腰掛けて、ちょいと遅めのランチ。

精肉店の裏手の八幡様のお社にお参りしてから普代駅へ。

普代駅(SOBO/140.50)13:40着。

地図上、まだ6qちょっとしか歩いてないのだが…環境省のトレイルマップに拠れば、白井海岸駅から普代駅まではおよそ2時間、NPO法人体験村・たのはたネットワーク作成のトレイルマップ(なかなかのすぐれもの・重宝しています)でも2時間半ってとこなんだけど、倍近い時間がかかっちゃってる。途中の寄り道分を差し引いても、やはり雪道でペースダウンしたからなんだろうな。

ここから先しばらくは舗装道路沿いだけど、今日のゴール「国民宿舎くろさき荘」の手前には非舗装の自然歩道と急坂が待ち構えている。あまりのんびりしてられない。

普代駅から先は普代川沿いの県道44号線を道なりに海の方へ歩く。左手、普代川を挟んで対岸に先ほどの普代小・中学校が見える。「ほほーん、あの山を越えて来たってことだなー。なんで4時間もかかってんだここまで?」

この区間は歩道が無く、狭い路肩も残雪で更に狭まっていてたりで、車の往来に気を付けながら歩いた。普代水門を南岸側で越えて海側に出る。

普代水門とこの先の太田名部水門は、1947年から10期40年に渡って同村村長を務めた故・和村幸得氏が、自身の昭和三陸大津波の経験から、執念とも言えるような努力でもって昭和40年代から50年代にかけて完成させた。

先の東日本大震災にあっては、水門の海側の漁業施設は津波によって壊滅的な被害を受けたが、陸側の被害は皆無、村民の人的被害は死者ゼロ・行方不明者1名に留まったことで脚光を浴びた。両水門と防潮堤の高さ15.5mは東北一とのこと。水門の南側の陸側に、防災顕彰碑と建設の経緯を説明したパネルが建てられている。

水門を海側に出るとすぐに大きな駐車場があって、その海辺の端の方に「はまの産直 きらうみ」がある。駐車場はガラガラだったけど産直は営業中だったので、一応、寄ってみた。他にお客さんもいなかったので、お土産もちょこっと買って店員さんと軽く話などしていると、初老のご夫婦が来店。店員さんとは顔見知りらしく、ドライブがてら顔見に寄ったって体で、コーヒーなど注文して一服されるご様子。話を切り上げるにはちょうどいいタイミングだった。14:20に再出発。

ここからは歩道あり。歩き始めてすぐに普代浜トンネルを抜ける。抜けてすぐ目の前が、もう、太田名部漁港。岸壁には数多くの漁船がびっしり係留されていて、小さな村(失礼?)の漁港にしてはなかなかの規模だなという印象。金曜の午後だからか、まだ立ち働く人や車の姿もあって、港内には稼働している生産現場の雰囲気が感じられた。

漁港と道路を挟んで反対側に、山手にある集落を守るように太田名部防潮堤が南北に伸びている。その北端の上の方に朱色の鳥居が建てられているのを発見。先を急ぐ気持ちを押さえて参詣する。

合祀神社から見下ろす太田名部防潮堤

【画像】合祀神社から見下ろす太田名部防潮堤

大鳥居の扁額には「合祀神社」とあり、後でグーグルマップで調べてみても、やはりその名称だった。しかし、一番大きな社殿に祀られている祭神の名が判然とせず、また、社殿の傍らには「金毘羅山社」の碑が建てられているほか、別に小さな祠も祀られていた。

どうもここまで歩いて見て来た限り、いろいろな神様や大小の祠や碑を、集めて祀っているように見受けられる神社があちこちにあった。

ここからはまたいつもの妄想でもちろん根拠は無いけれど、そうした碑や祠は過去、津波災害のたびにあっちへこっちへと遷されて、そのうちに今日のようにまとめて「合祀」されるに至ったものではないだろうか?(だとしても「合祀神社」って、あまりにもそのまんま過ぎる気もするけど)あるいは明治初期の廃仏毀釈、神仏合習禁止などの政策の影響もあったんではないか?

ともあれ、更に先を急がなくては。

ここからは2km弱、太平洋を左に見ながら県道沿いの歩道を歩く。途中、数ヶ所、トンネル(壁面にスリットのある、厳密には「洞門」とか「覆い工」とか呼ばれるもの)の外側に設けられた通路を歩く。

あちこちで漏水部分が分厚く凍っていて、滑ってコケでもしたら危ないと、よくよく注意して歩かなくてはならなかった。

黒崎漁港(SOBO/145.64)15:30着。車で入れるのはここまで。

港の外れの大岩の上に小さな朱色の祠あり。当然お参りする。錆びかけた鉄製の階段を登り岩のてっぺんへ。猫の額ほどの平坦部分に建てられた小さな祠だった。眼下の水面を見下ろすと意外と高度感があってビビる。今日の宿まであと一息、ラストスパートの道中無事を祈願した。

黒崎漁港

【画像】黒崎漁港

ここから先の海沿いは「ネダリ浜自然歩道」と言って、海に張り出した懸崖の真下の岩礁地帯をグネグネと伸びる遊歩道を、さらに奥の「弁天漁港」まで歩くこの一帯では屈指の見どころ。もともとは弁天漁港と黒崎漁港とをつなぐ作業路だったらしい。弁天漁港の手前では手掘りのトンネルを通る。ちょうどネコ車(一輪車)がギリギリすれ違えるくらいの幅だった。

幸い、海側にはしっかりした手すりが設置され、路面もコンクリ舗装されている。ただし、ここでもところどころで沢水が凍ってアイスバーンと化していて、手すり無しではちょっと大変だったろうと思う。また、この時は満潮までまだ2時間前くらいあって、雲ってはいたけど海は穏やかだったので高波の心配はせずに済んだが、タイミング次第では無理せず迂回した方が無難だろうとも思った。そのくらい海が近い。が、それだけに、もっと天気が良くて、もっと日の高い時間帯だったら良かったなぁ。残念。

ネダリ浜自然歩道

【画像】ネダリ浜自然歩道

弁天漁港(SOBO/146.31)15:45着。

ここには「ネダリ浜休憩所」というハイカー向けのシェルターがある。もとは漁港の設備だったと思しき、コンクリートむき出しのバンカーのような建物。一応、中に入ってはみたけれど、あまり長居したい雰囲気では無かった…目の前の小さな入り江は冬らしく冷たそうに澄んでいたし、時間帯や天気次第では悪くなかったかもだけど、もう日が落ちんばかりに暗くなって来ていて、自分の心に余裕が無かったから余計にそう感じたのかも知れない。

弁天漁港から黒崎展望所まで、海岸段丘の斜面のつづら折りを標高にして150メートルほど一気に登る。足元は石段敷きで、古いながら丸太を模したコンクリ支柱の手すりも設けられており、もともと軽装での散策向けに作られたようだった。が、利用者が少ないからだろう、一抱えもあるような落石が放置されていたりとけっこうラフめのコンディションだった。

30分ほどで登り切り、MST標識「普代駅6.4q/黒崎展望所0.1km」を通過。付近に点在する、宮沢賢治の「発動機船 一」の詩碑をはじめとした幾つかの見どころは明朝のお楽しみにするとして、今日のところはもうとにかく1分でも早くゴールしたい…その一心で歩を早めた。

「国民宿舎くろさき荘」(SOBO/147.48)16:30着。

白井海岸駅から約12kmを約7時間で歩いた計算。なかなか苦戦したかな?とにかく今日の行程はここまで。思わず安堵のため息吐く。

チェックイン。こちらでは新コロワクチン接種証明書の提示を求められた。なにかしらの割引で3割ほどお安くしてもらえた。

フロント係の方の言うには、ここ数日、数人だが国内外からのハイカーの往来があったとのこと。こちらに宿泊した人もいれば、すぐ近くの黒崎オートキャンプ場(ちなみに冬季閉鎖のハズ)で野営した強者もいたとか。近隣の熊の出没状況(!)についても情報を頂いた。

建物自体は前回泊まった野田村のえぼし荘と同じ頃の築なのか、どちらも設備は同程度(に古く)、部屋の間取りもほぼ同じだった。料理はハナ差でえぼし荘に軍配が挙がるか?といった印象。でも、トイレを常時暖かくしてくれているあたりに細やかな配慮を感じた。フロントの係の方も丁寧だし、トレイルの色々な情報を貰えたのも有り難く好印象。

まず風呂。そして18時半から夕飯。

しこたま食べて飲んでお腹いっぱいになったところで、部屋に戻って布団に寝転がって、今日の振り返り。地図を片手にデジカメの写真をざっと見返しながら、印象に残ったことなどを書き込んだり、スマホに打ち込んだり。宿で過ごすこの時間、至福のひとときだなぁ。そしてこーゆーのは、洋室のベッドの上より、和室で布団の上の方がなんかしっくりくる。

それにしても、今日はなんと言っても積雪の影響が大きかったな。結局、普代駅到着13:40って、想定よりおおかた2時間くらい遅い。正午かそれより前には着けるだろうと考えてたから。あちこちで道草も食ったけど、やはり宇留部山越えに時間かかっちゃったのが痛かったか。

天気については、予報通り終日曇り空。晴れてれば紺碧の海を眺められただろうになぁ。むしろ日が暮れて辺りが暗くなるのを心配するあまり、ハイペースで通り抜けてしまった。途中、けっこう見どころも多かったと思うし、なんだかもったいないことをした気がする。

事前に潮見表で調べて来た今日の日没は17:18だったが、くろさき荘に着いた頃にはもうかなり暗くなっちゃってた。これまでも実際に暗くなり始めるのは日没時刻より1時間は早いという認識だったけど、冬場は更に早まるということだな。考えてみれば当たり前だけど、これはひとつの教訓だな…

とかなんとかスマホに打ち込んでる途中で猛烈な睡魔に襲われて寝落ち。22時には消灯。

2023年2月25日(土)

朝5時半起床。

まずスマホで今日の天気をチェック。現在地(普代村)の本日の天気は曇りのち晴れ。気温は最高5℃、最低-3℃、にわか雪に注意とのこと。窓から眺める限り、今のところ晴れていて海も穏やかそうに見える。

08:00、くろさき荘をチェックアウト。まずはウォームアップがてら、昨日スキップした陸中黒崎灯台、北緯40度モニュメント、アンモ浦展望台など周辺の見どころをチェックした。

陸中黒崎灯台

【画像】陸中黒崎灯台

くろさき荘に戻り、改めて本日のスタート。08:45になっちゃってた。

正面玄関近くにトレイル入口あり。MST標識「北山崎展望所9.2km」と「熊出没注意」の看板、そしておなじみの利用者数カウンターが並んで立てられている。カウンター、もちろん押して「0001」にする。

海に向いた斜面に延びるトレイルがすっかり積雪に覆われているのを見て、今日は最初からチェーンスパイクとゲイターを着装、熊避け鈴も着けた完全装備でスタートだ。

昨晩、布団に寝転がって練った本日の行程の構想。

当初の計画は、朝、黒崎を出発し、北山崎展望所にある「みちのくトレイルクラブ・北山崎ビジターセンター」(以下、「北山崎VC」と略)を経て、更に南の「机浜番屋群」をゴールとして約14qを歩くというものだった。

机浜番屋群からは、後述する「観光乗合タクシー」で田野畑駅に移動し、さんてつで宮古に戻り、JRに乗り換えて盛岡に出て一泊…という例によって強行軍なスケジュールだ。

しかしながら、昨日のトレイルの残雪状況と実際に歩けたペースとを考えると、事前情報通りの所要時間=約6時間で歩くのは難しいだろう。実際、昨日は約12qを歩くのに約7時間かかった。それも平坦な舗装区間がけっこう長かったにもかかわらず、だ。

北山崎〜机浜番屋群の間は「北山崎自然歩道」にあたり、全体ほぼ非舗装でアップダウンも激しい。昨日と同程度の積雪に遭うと想定して、昨日と同じだけの距離を昨日と同じペースで歩くのは体力面からも厳しそうだ。

そのうえ盛岡に今宵の宿、そして明朝、早い時間に帰りの新幹線を予約しちゃってるので、田野畑駅16:59発の上りのさんてつが事実上のデッドラインなんだけど、「遅れちゃいかん」と焦って先を急いだりするのは、未知のトレイルを歩く場合、とてもリスキーで避けるべきシチュエーションだ。

以上、もろもろ考えて、残念ながら今回、机浜番屋群まで行き着くことは半ば諦めて、ひとまず北山崎VCまで歩き着くことを目標とした。幸い観光乗合タクシーは北山崎でもピックアップしてくれる。

机浜まで足を伸ばすか否かは、北山崎に着いたタイミングと体力の残り具合に相談しよう。また万が一、積雪があまりに多くて北山崎VCに着く前に進退極まっちゃいそうな場合、最悪、途中の数ヶ所にある(らしい)林道分岐から村道に逃げることにして、とにかく本線ルートを急がず焦らず歩こう、そう決めた。

にわか雪に降られる

【画像】にわか雪に降られる

さて、歩き始めると、やはり昨日同様、積雪の全くないところと吹き溜まりになっているところ、溶け残っているところがランダムに現れる。

歩き始めて30分かそこらで、にわか雪に降られた。スマホの天気予報と同じく、今朝、食堂で見たテレビの天気予報でも「ところによりにわか雪」と言ってたし。小1時間ほどの間だったろうか、断続的に降られた。

しかし装備が期待通りに機能してくれたので不安を感じずに済んだ。

スタート時の服装は、アウターにモンベルのストームクルーザージャケット、中間着に同じくモンベルのダウンジャケット、ネックゲイター(兼目出し帽)とフリースの帽子、手袋(アウターはフリースのミトン、インナーも薄手のフリース手袋)。あまり寒さが厳しくなるようなら使うつもりで、使い捨てカイロも携行していた(使わずに済んだけど)。

ちなみにトレイルそのものは概してよく整備されているようで、積雪さえ無ければ歩き易そうにすら思えた。また、この辺りでも森林が広範囲に皆伐されている箇所が目立った。やはり印象は良ろしくない。

11:10、おそらく普代・田野畑両村の村境の手前の辺り、尾根の突先の海を見晴らせるところにベンチがあったので少し早いけどランチにした。

後でDATA BOOKにあたってみたところ、おそらく「ベンチ」とだけ記載されている(SOBO/152.59)らしかった。

朝食の時、食堂の方にお願いしてサーモスに入れてもらったお湯でシーフードヌードルを作った。それにクラッカーとツナマヨ、チョコレートで簡便に済ます。

サーモスをバックパックの外ポケットに入れてたので外気で冷えたのか、辛うじて麺がふやける程度の湯温になっちゃってた。けど、この状況下なので何でも美味しいわ。サーモスも便利だけど、今度また冬に歩くことがあったら、その時はクッカーを持参しよう。

11:40、再スタート。しっかり休憩しちゃったな。

ランチ

【画像】ランチ

歩き始めるとすぐにトレイルは緩やかな下りになり、沢に行き当たった。冬だったからか流れは細かった。その手前にMST標識「北山崎展望所3.7km/黒崎展望所5.9q」(SOBO/152.99)あり。普代村・田野畑村の村境だ。11:50、田野畑村に入った。

それにしてもスタートから既に3時間経過、当初のプランでは8時に出発して、今頃とっくに北山崎に着いているつもりだったってんだから、いかに見積もりが甘かったかってことだよなぁ。まぁ、事前情報の所要時間が無積雪期(春〜秋)のものだったと考えれば納得いく感じではあるが。

なんにせよここから北山崎VCとの間に、まだひとつふたつ、越えなきゃならん大きなアップダウンがある。とてもあと1時間では着けないだろう。

今、既にけっこうバテバテだし、今日、このまま机浜番屋群まで歩き通せると思えん…が、北山崎までなら日のあるうちに十分着ける。とにかく無理せず焦らず、まずは目指せ北山崎。

しばらくは海岸段丘の鞍部で比較的なだらかだった。が、ところどころ積雪がありブーツの足首がすっぽり埋まるくらいの深さのところもあった。

30分ほど歩いたところで急傾斜を階段で下る。またも沢筋が現れた。ここは特徴的な地形をしており、DATABOOKに「沢水、沢筋 増水時注意」(SOBO/154.62)と記載された地点とみて間違いなかった。

この沢筋を海の方向に下って行く。水量は少ないが、マーカーも少なく足場も悪いので慎重に歩く。

沢筋の両岸はけっこう急な斜面が雑木林に覆われている。あちこちに沢水が凍った大きなツララが出来ていて、日当たりの悪さが見て取れる。

トレイルの様子(北山崎VCまであと約1時間ほど)

【画像】トレイルの様子(北山崎VCまであと約1時間ほど)

正直、「これで合ってる(正しいトレイルな)のか?」という不安も湧いたけれど、ところどころにまだそれと分かる、ここ数日の間に他のハイカーの遺したブーツの足跡やトレッキングポールの穴が残っているので、それらも頼りに歩を進める。

そろそろ沢の向う側に渡る地点が現れる頃じゃないかと、なにかしら目印が無いかと注意しながら歩いて行くと、流れの脇にコンクリート製の構造物が現れた。沢水を溜めて何かに利用していたものらしかった。

こうした建造物があると言うことは、周辺に少なくとも軽トラが通れる程度には整備された林道などが接続しているハズ。地図を見ても、海に向かって突き出した岩礁と、海岸段丘(今、右手=南側に見ながら下っている斜面を形成している)の尾根筋が落ち込んだ地点が一種、峠の様になっているので、トレイルがあるとすればその地点を通過するのだろう…と思って歩いて行くと、沢に架けられたハイカー用の簡易橋が現れた。沢伝いの区間はここまで。地図に示されているより、かなり下流まで下ったような気がする。

橋のたもとで一服していると、上流の方でガサガサという踏み音。ハッとして目をやると、4、5頭の鹿たちが斜面をザザザッっと足音を残して遁走して行くのが見えた。

橋を渡るとすぐ、MST標識「北山崎展望所1.7q/黒崎展望所7.9km」を通過。現在12:50、村境からの約2qを約1時間かかって歩いた計算。

ここからは予想通り、軽トラが通れそうな林道がしばらく続き、MST標識「北山崎展望所0.6km/黒崎展望所9.0km」の地点で再びトレイルに入る。

これが最後らしきひと下り、そしてひと上りすると、ようやく前方の木立ごしに大きな建物が見えて来た。北山崎VC(SOBO/156.59)到着13:30。

ここにも利用者数カウンターあり。当然、ひと押しして「0002」にした。

実質的に09:00前スタートだったので、所要時間はおよそ5時間弱と、ほぼ予想通り。しかし疲れ具合は予想以上で、両脚ふくらはぎはパンパン、両膝も痛み始めていた。

当初計画の本日のゴールである机浜番屋群までの約4q、この状態で歩き切れるか?肉体同様に疲れたアタマで算盤を弾いてみる。

結果、迷ったけど、やはり安全第一、今回はここで切り上げるとにした。

くろさき荘〜北山崎VC間の約9qを、休憩時間を差し引くと約4時間で歩いている。時速2qちょいのペースとして、4q先なら2時間〜2時間半ほどで着ける計算だ。机浜番屋群発・田野畑駅行きの観光乗合タクシーの発車時刻は16時半、あと約3時間あるし、なんとか間に合うんじゃないか?

と思う一方で、この先もおそらく今日ここまでと同様、ところどころ積雪のあるアップダウン(少しは緩やかになるかも知れないが)の連続だろうし、ここまでの消耗度合を考えると、この先も同じペースで歩けるというのは楽観的過ぎる。途中、休憩なしってのも無理があるし、昨日と同じく16時頃には周囲が暗くなり始め、気持ちも焦ってくるだろう。

先にも述べた通り、「焦り」は禁物だ。「もう少し頑張れば」ってラインを敢えて踏み越えないのも大人の分別。なに、次の機会があるさ。

果たしてこの判断は正解だった。後日、GWにこの区間を歩いた際、しっかり4時間かかった。すっかり雪もなくなっていたにもかかわらず、だ。
次回、「みちのく潮風トレイル」#09で詳述する予定。

田野畑観光タクシーに電話して、ピックアップをお願いする。

予約は各便の出発1時間前までにしなきゃいけなかったので、16時台の便まで待つつもりでいたのだけど、幸い、14:15発の便で迎えに来てくれるとのこと。展望台から写真撮ったりとかしながら待った。

北山崎展望所にて

【画像】北山崎展望所にて

ちなみにこの「田野畑観光乗合タクシー」は田野畑村の運営で、さんてつ田野畑駅を基点に北の北山崎・机浜番屋群方面に1日6便、南の鵜の巣断崖方面に1日2便、さんてつの発着時刻に合わせたダイヤで運行されている。

事前予約制で、各便発着の1時間前までに電話予約要。運賃は北山崎方面・鵜の巣断崖方面、それぞれ1人800円、1500円である(詳細は田野畑村公式ホームページをチェックされたい)。

時間通りに現れた乗合いタクシー(と言っても乗客は俺一人だけだったけど)で次回歩くであろう区間のチラ見もしつつ田野畑駅へ。ものの10分ほどで到着。料金800円也。

ここからは例の如く怒涛の鉄道移動。15:03発の上りのさんてつで宮古へ。宮古15:49着。JR山田線に乗り換えて15:54発。盛岡18:21着。

常宿のR&Bホテルにチェックイン。ポイントも使って素泊まり1泊4000円也。閑散期?だとしても格安だなぁ。

いつもの一軒目「ももどり食堂」は今夜は満席とのこと。盛岡駅周辺も今まで見たことないほどめっちゃ人出てる感じだったもんな…トレジオンを木伏→ルリエとハシゴして気分よく飲んで、自分用に東北DRIPPERS缶を大人買い。駅前のラーメン屋で〆てホテルに戻ると23時。スマホに今日のメモを書き始めるも、すぐ寝落ちした。

2023年2月26日(日)

8時頃起床し、9時にはチェックアウト。盛岡駅の立ち食いソバ屋でかき揚げそばで朝食にして新幹線で帰途に就く。

乗り継ぎの東京駅の混みっぷりと言ったら!二月の飛び石連休でさえこの混雑、GWなんかホントどうなることやらだぜ?

東京からは持って来た文庫本を読んで過ごす。天気良く雪を頂いた富士山も美しかった。

16時頃、西宮に帰着。隣のファミマでモバイルバッテリーを返却し、帰宅。今回の旅程、これにて完了す。

しかしまぁ疲れたわ雪中行軍2日間。装備も判断も適切だったとしても、いかんせん体力の低下は否めない。なんとかしないとな。

寒かったには違いないけど、まぁ所詮は「自然歩道」とかなので、冬山登山ほどハイリスクではなかったと思う…んだけど、ハードだったわ。舐めてました、真冬の岩手を。積雪のあるトレイルを。

と思う反面、雪の里山トレッキング、初めての経験だったけど、実に面白かった。ハラハラドキドキもあったけれど、楽しかった。月曜の仕事のことなんか、すっかり忘れたほど。

また、結果として予定より一行程手前で切り上げちゃったってことになるんだけど、そこで変に当初の計画に固執しない判断が出来たことは、むしろ我ながらナイスだったと思う。そしてそれを可能にしたのは、事前の情報収集とこれまでの経験で得た知見だと思う。と、自画自賛しておこう。

それにしても、今は疲れてるから余計にそう思うのかもだけど、やはり年に3回ってのは、このページの記事書き・更新が間に合わないって意味で、ちょっとオーバーペースでしんどいかもなぁ。

前回の記事を書き終わらないうちに、もう次のんを歩くってのは、すごく美味しい料理の後味を楽しみ尽くさないうちに次の料理に箸を付けるような勿体なさを感じる。ただ、年2回ペースだと、今度はなかなか距離が稼げないのがストレスになってくるし。なかなか悩ましい。

まぁ次回、GWに歩いたら夏の間はMST歩くのはお休みなので、その間に記事書くのも追い付けるかな。そしたら少しは気持ちに余裕が出来るかな。

とはいえ次回は次回で、色々考えて早め早めに計画していかないと、多分GWなんか、何処もすごい人出でえらいことになりそうな気がする。

つづく