2001年5月17日公開



※本文中の制度・料金等は1996〜1997年頃のものです。

<田舎道で事故る!>

Stewart Island から戻って数日を Invercargill YHA で過ごし、2月1日、あらためて旅をスタート。Invercargill を基点に内陸方向の Gore へ向う主要道路のSH1ではなく、南太平洋の海岸線に向うSH92を Catlins Coast 方面に進路をとりました。

まず Dunedin までは、メジャーな見所こそ少ないものの、旅行ルートとしては定評のある Southern Scenic Route を走ろうというわけです。

Catlins Coast=Southern Scenic Route の見所については、DOCの発行しているパンフレットが内容も充実、値段も手ごろ(当時で確か1〜2ドル)でした。

朝から曇り空で、時折小雨が混じる空模様。

途中 Curio Bay と Cathedral Cave に寄り道しただけで、先を急ぎました。

Curio Bay への分岐を過ぎた辺りから道路は非舗装になりました。場所によっては部分的に舗装されていたりもしましたが、見通しの悪いコーナーも多く、慎重な運転が続きました。砂利道の運転に不慣れだったこともあって、途中たびたび休憩をとってはいたものの、大分くたびれました。

そうこうしているうちに何とか Owaka に到着。

今日の目的地 Balclutha まであと40km。

「疲れたし今日はここで泊まっても良いよな」とも考えたのだけど、あらかじめたてた予定にあくまで固執して、もう一走りすることに。

町のデイリーでサンドウィッチを買い、一服してから、さぁもうひとふんばり。

思えばここが運命の別れ道だったみたいで…

町の中心の交差点を北に向って「左折」しました。

町を抜けると道はすぐに砂利道になりました。

路面を注視しながら「滑りやすそうだし私の運転では60km/hが限度だな」と判断し、制限速度をかなり下回る50〜60km/hを保って運転を続けました。

牧草地の中をゆるゆると走っていくと、雲が切れて柔らかい陽射しがこぼれてきました。辺りの長閑さも手伝って「この調子ならテント泊でも雨の心配はいらないかな」などと、のほほんと考えていました。

そしてメーターにちらっと目をやった次の瞬間でした。

車体が突然道路の右側に引き寄せられるように流れ始めたのです。

反射的にハンドルを左に切ったのですが、方向は変わりません。

見る見る牧草地の柵が迫って来ます。

右側の牧草地はかなり傾斜していて、柵の向こう側に「落っこちる」という感じだったのでかなり焦りました。

ところが相当右側に寄ったところで、いきなりタイヤがグリップを回復、逆ハンを切っていたので今度は左に急激に方向転換、次の瞬間には道路左側の盛り土に乗り上げていました。

左側の牧草地は緩い傾斜で、柵の根元は盛り土になっていたのです。そこに左前輪から乗り上げた瞬間の鈍い衝撃、–「あぁ、これでオシマイ…ってなわけにはいかんよな」とか、妙に冷静ぶった考えが脳裏をよぎったりもしたのですが– 次の瞬間、柵の支柱に衝突した軽い衝撃とガコッという鈍い音、衝突でスピードが減殺された反動で、慣性のついたルーフの上のMTBがラックもろとも左斜め前方に吹っ飛んでいくのを視界の隅に捉えました。

衝突と牧草地の柔らかい地面とで相当スピードが殺されたのか、2本目の支柱を押し倒すと、車首を砂利道に突き出すようにしてやっと止りました。

おそらくほんの4、5秒の間の出来事だったのではないかと思います。

<事故ってから>

なにはともあれエンジンを切って、第一声はなんだったっけ?今となっては思い出せませんが…とにかく車を降りて、現状チェック。ガソリンが漏れてなくて良かったけど、ルーフラックは根こそぎ吹っ飛んでるし、フロントグリルの支柱がヒットした部分はべっこーんとへこんでるし。車体下部を覗き込めば、CV Joint のエンジン側の取り付け部分からまたもオイル漏れ…

まず深呼吸。自分の体を見回すと、幸いカスリ傷一つ無し。それから考えました。「う〜ん、事故っちゃったな。次はどうする?」

バックパックからパスポートや国際運転免許証などを取り出すと、500mほど後方に見えている白い家に行くことにしました。

見たところ周囲に他の家は無いようだし、多分この牧場の持ち主の家だろうと思ったので。もしそうでなくても警察を呼ぶために電話を借りなくては…

近付いてみると牧場主の家にしてはやけに瀟洒な作りの邸宅でしたが、車庫にトラクターをはじめ農機具が置いてあるとこをみると間違いなさそうです。

果たして私の予想通りでした。私の急な訪問を受けた老夫婦は数年前に引退していて、今は息子さんが牧場を継いでいるのだそうです。

まずは御主人に急な訪問とその理由を説明して謝りました。それから警察に電話するようにお願いしました(なにしろこちらは現在位置がわからないので)。

警官を待つ間、奥さんがコーヒーとお菓子を振る舞ってくれました。恐縮しつつもコーヒーを頂きながら、これまでのNZでの生活の話や日本の話などをしました。

やがてパトカー(レガシー・ツーリングワゴン)が来たので、現場に戻りました。

30歳くらいの警官が、まず私の氏名、住所、国際免許証の番号、任意保険の詳細などをチェック。車のナンバーや型式なども控えたようです。

それから事故時の状況を聞かれたのですが「え?こんなんでいいの?」というような簡単さでした。単なる自損事故で怪我人もいなかったからでしょう。

そのうちAAのレッカー車がやってきて –自走・牽引はやばそう、ということで警官が呼んでくれたのです– 私のミラージュを荷台にウィンチで固定すると、ガレージのある Clinton に向って走り去りました。警官は彼の勤務地でもある Clinton までパトカーで私を送ってくれると言います。

そう、私は自分では Balclutha に向ってSH92を走っているつもりが、実はSH92から外れて山の方山の方へと進んでいたのでした。

聞けば Owaka の交差点では北に向って「右折」しなければいけなかったのだそうで…もはや言葉もありません。

私のトホホ感を知ってか知らずか、警官は私が事故ったのと同じ砂利道を、時速120km/h超でかっ飛ばしていきます。

Clinton のガレージに着くと、ミラージュは既にジャッキアップされていました。

先ほどレッカー車を運転していたガレージのメカニックさん曰く、
「もぉこれ以上この車に金を使うのはどうかと思うな」
「問題なく走れる状態まで修理するのに、まぁざっと700ドルはかかるね」
「なによりボディ底部がここまでサビサビだと次のWOFはパスしないよ」だそうで。
「ほいじゃもぉなるべく早目に売りたいが」と私が言うと、Balclutha の部品屋さんを紹介してくれました。
「もし彼がいらないって言ったら俺が500ドルで買うよ」とも。

まぁ詰まるところジャンクパーツに等しいわけだから、それだけもらえりゃ上等か。ちなみに今日のレッカー代と応急処置費120ドルはクレジットカード払いで。

Clinton から Balclutha までなんとか自走して Motor Camp にチェックインしたのが午後7時半くらいでした。途中、なだらかな牧草地に残照が映えて美しかったのをよく憶えています。

さて、テントを張って今夜の寝床は確保できたものの、なんだか落ち着きません。無性に何かしたいという衝動に駆られて、しばらくの間、荷物をあーでもないこーでもないといじりまわしてみたり…でも結局「今日のところはどーしよーもないわい」とゆーことで夕食にしました。

ダイニングルームのテレビで、たまたまやっていた "TOPGUN" を観終わると、ようやく落ち着いたのか眠気がさしてきました。

<起きてしまったことは仕方ないとして責任ある対応とは?>

テントに戻って寝袋に潜り込んで、事故の瞬間を振り返ってみました。

そもそもなんで突然コントロールを失ったんだろう?地元警官は同じ道を120km/hで走ってるんだから、私の運転になにか問題があったのかなぁ?じゃぁ、あの瞬間を思い出して検証してみよう…

最初の一瞬、左にハンドルを切ったよな…これは間違い無い。…その後が思い出せない。車がなんとか停止して、意識的に「クラッチを踏んでギアをニュートラルにしてエンジンを切るまで」なにをどうしたのか全然憶えていない。

運転技術上のことを除けば、おそらく一番大きい原因は私が砂利道の運転に不慣れだったこと。あと、運転に疲れてきてたのに、ついつい目的地 Balclutha までの道を急いでしまったことも。疲れを自覚した時点で Owaka なりどこなりで泊まっておけば良かった。今更遅いけど。

…ま、原因はどうあれ、ラッキーだったことは間違いなさそうだなぁ。

牧場の御夫婦も息子さんも警官も口を揃えて「ま、怪我ひとつなくて良かったじゃないの」って言ってくれたし。

何よりスピードを抑えて運転していたことが幸いしたらしい。もし制限速度の100km/hで走ってたらもっと大きな事故になって、怪我くらいではすまなかったかも…

突っ込んだのが道路の左側だったのも良かった。スピードを減殺して停止することが出来たから。もし右側に突っ込んでいたら上手く止れていたかどうか自信は全く無いし、下手すると横転していたかも…

ちょうどテレビで、「飲酒運転で横転して牧場の溝にはまっちゃって、自力では脱出できなくて、そのうち雨が降り出して溝に雨水が貯まって溺死」ってな警察のCMをやってたもんなぁ…警官も言ってた「横転しなくてホント良かったよ」。

あとシートベルトもしていたから、打ち身一つなし。

これだけ気を付けて運転していても事故っちゃうんだもんな、これはもぉ不可抗力だな、と決して自分を責めない良い性格。

牧場主のおじいさんの感じでは「良いよこんなのよくあることだし」って感じで、その気になれば警察も呼ばずに済まそうと思えば済ませられたかも。正直なところ私にも「メンドーはゴメンだなぁ」という考えがあったから…でもすぐに思い直して「ケジメはきちんとつけなくては」と。で、警察を呼んでもらったのでした。

とにかくまず私がしなくてはいけないことは、月曜朝イチに(今日は土曜日)保険会社の Balclutha のオフィスに行き「事故報告書 "Claim Form"」を提出することだ、と警官に言われました。

馬鹿正直と言えば言えなくもないが、こーゆーのが大事だ、などと考えつつ眠りに落ちました。いろんな意味で今日は疲れた…
…次回、完結編。

<続く>