2002年3月10日公開
最初のNZ滞在中、96年〜97年にまたがっておよそ1ヶ月半、南島は Otago 地方で果樹園労働者として働いた。
現地での生活も既に半年、その間 Queenstown で3ヶ月 Kitchenhand として働いていたが、もう少し現地の人々に近い仕事がしてみたかったので、春の訪れと共に仕事探しを始めたのである。
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【仕事探しと公的手続き】
現在ではどうなっているのか知らないが、私の滞在当時、WHで現地就労する場合、まずは IRD NO. を取得する必要があった。
最寄りの Inland Revenue Department に問い合わせて申請書の用紙を送ってもらい、必要事項を記入の上パスポートのコピーと共に返送する。
後日、通知書類が送られて来るので、ナンバーを雇用主に知らせる。問い合せから書類が手元に届くまで、1週間から10日ほどかかった。
正規の Work Permit さえあればナンバーの取得前に働き始めることは可能。
もちろん取得後にナンバーを知らせなければならないことに変わりはないが。
私の場合、Kitchenhand をした際に取得してあったので問題はなかった。
Queenstown にいる間に仕事は探しておいた。
10月に入ってすぐ、まずは地元のフリーペーパーに求職広告(Situation Wanted)を出してみた。
1回掲載・15 words=10ドルだったが、こちらには1件の引き合いも無かった。
10月末に地元出身の友人に教えてもらった幾つかの果樹園を訪ねて、結局そのうちの一つに職を得ることが出来た。
直接行ってみて「人手が必要になるようなら是非連絡を」と連絡先のメモを預ける、といったアプローチをとってみたのだが、特に最後に寄ったところではオーナーと直接ハナシが出来て好感触を得た。
11月中旬になってもう一度そこを訪ねた。
詳しいハナシでも聞こうかと思って行ったのだが「来れるなら明日からでもOK」と、拍子抜けするほど簡単に決まってしまって、就労中の宿の紹介までしてくれた。
この時期の果樹園での仕事のクチというのは、わざわざ自分から求人広告なんぞ出さなくとも比較的簡単に得られるものらしいというのは大分後になって知った。
単純労働かつ比較的低賃金ということも手伝ってか、比較的高い失業率にも関わらず不人気な仕事らしかった。
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【仕事の条件と給料】
仕事は12月のアタマから始まった。
作業は大きく分けて Thinning と Picking。
給料は作業内容と果樹の種類によって異なっていた。
Thinning(間引き)はリンゴやアンズ、サクランボのなどの実を一つ一つが十分な大きさに成長できるように、小さな粒を摘みとって適当なスペースを作ってやる作業。
期間は12月始めから半ばまでの約2週間だった。
午前8時〜午後5時の、実働8時間。Hourly Rate(時給制)。
私の場合で時給7ドル40セント(税引き前)。1日に59ドル20セント稼げる計算になるが、Income Tax(所得税)がかなりの税率で、手取り額はだいたい額面の「8掛け」くらいだった。ざっと48ドル/日といったところ。
Picking(収穫)は12月下旬、サクランボからスタート。
サクランボの Picking は午前7時〜午後4時(だったと思う)。
Contract Rate(出来高制)。75セント(税引き前)/kg。
始業と終業が Thinning より1時間ずつ早いのは、午後暑くなると果実が割れやすくなるので朝早くから摘んで午後は早じまいするからだそうだ。
正味10日間ほどで合計950kgほど摘んで、手取りが585ドル29セントだった。
950kg×0.75ドル×「8掛け」=570ドルで、だいたい計算が合うだろう。
給料は2週間に一度、Pay Cheque(小切手)で支払われた。それを町の銀行に持って行って、窓口でキャッシュにしてもらったり口座に入れたり、といった具合であった。
1月上旬、サクランボの収穫が終わりアンズの収穫が始まると、給料は Hourly Rate に戻った。ある程度熟れた実だけを選んで摘む Selective Picking である。
この時期で私は果樹園を去ったのであとのことはわからないが、アンズの次に来るリンゴの収穫も Hourly Rate になると聞いた。
リンゴの収穫はかなりの重労働で、Nelson や近隣の Alexandra 等、他の地方では普通 Contract Rate だという。
ちなみに屋外での仕事のほかに Packing(出荷前の箱詰め作業)の仕事もあったが、細かいことはまるで分からない。しかし時給はもっとも安いと聞いた。
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【仕事】
通勤は車で。朝方は肌寒いが、日が高くなってくると陽射しは強く急激に暑くなる。
半袖半ズボン・帽子にサングラス、タオルと水筒は必需品。肌の弱い人は日焼け止めも手放せない。
午前10時と午後3時に10分ほどの休憩。現場監督がトヨタのピックアップの荷台に冷水と紅茶のタンク、それにコップをごっそり積んでやって来る。木陰で思い思いに休んでまた仕事に戻る。
12時からは40分ほどのお昼休憩。たいていは自分の車の中で弁当を食べてしばらく昼寝、といった感じ。
時間割という点では日本での工場労働と何ら変わるところはなかった。
Thinning は2mくらいの高さのハシゴに登ってただもうひたすら間引くのみ。1列を2人がかりで両側から間引いていく。もいだ小さい実はそのまま木の下に落としてしまう。
Picking は Picking Bag を首から下げて、そこに摘み取ったサクランボを入れていく。
投げ込まずそっと置くように入れるように注意された。
あまりたくさん入れるとハシゴの上り下りがシンドイので、ある程度たまったら木の根本に置いたプラスチックの箱(Crate)に移す。
また登って、摘む、下りて移す、また登って、摘む下りて移す×8時間。
そのうちに一杯になった Crate を、現場監督がトレーラーで回収に来る。
Crate にはあらかじめ自分の名前を書いとくようになってるので、これで誰が何箱摘んだか分かるし、ズルしてまだ熟してない奴を摘んだり、乱暴に摘んで傷をつけたりしてる人には、「指導」がおこなわれる、といった具合。
Crate はほどよく山盛りにすると、ちょうど10kgといったところ。
「これ一箱摘んでやっと手取り6ドルかよ…」と、気が遠くなったりもしたものだ。
前日の自分の収穫量は、翌朝黒板に書いてくれてあった。1時間で 1 crate 摘めればそこそこ良いペース、というのが私の感覚。
速い人になると1日150kgとか180kgとか摘んでいたけれど、そういう人はたいてい翌日メチャクチャペースを落としていた。
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【果樹園のある側面】
雨の日は基本的に休みだったのだが、収穫時期、午後から天候が回復する見込みの日などは、電話がかかってきて「午後から来てくれたら今日は1ドル/kgにするよ」なんてこともあった。
こんな天気の日にはヘリをチャーターして果樹園の上空でホバリングさせ、木々の雨露を吹き飛ばして収穫作業が出来るようにするのだ。
そうまでして –特にサクランボについては– 果樹園は出来る限り短期間に集中的に収穫を終わらせようとする。それというのも熟した実が無数にいる野鳥達の格好の標的になってしまうからだ。
事実、サクランボの収穫も最後の方になると、木々のてっぺん近くの実はほとんどが鳥に食われていて、午後ともなれば陽射しで溶け出た果糖で手がべたべたになってわずらわしいことこの上なし。
もちろんオーナーも大事な商品が鳥の餌になるのを黙って見ているわけではない。
実際、果樹園での鳥対策は容赦の無いものであった。
たまに枝のあいだに鳥の巣があるのを見付けると、卵があろうがヒナがいようが巣ごと地面に叩き付ける。仕事の合間や昼休みなどにも広い園内を周ってはショットガンで追い払ったり実際に射殺したり。なにせ大事な実をキズモノにしてしまう「害獣」以外の何者でもないから。
かく言う私も一度だけ卵のある巣を見付けたことがある。オーナーには悪いがさすがに地べたに叩き付けることは出来なかった…。
傍からは牧歌的に見えても現場はけっこう現実的だった、というお話。
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【辞める時と税還付】
今日ではどうなっているのか知らないが、当時は仕事を辞める時は雇用主から IR12 という書類を受け取るのが必須だった。源泉徴収された Income Tax の還付を受けるのに必要だったからだ。
還付申請はNZ出国直前に自分でIRDのオフィスに出向いてした。即日還付してもらえないかと思ったのだが、無理だった。
ケースバイケースだが還付までは1ヶ月半〜2ヵ月かかると言われたので、現地の銀行口座振込での受け取りをあきらめて、日本の実家への小切手郵送を頼んだ。
私の場合、レストランと果樹園で額面合計5,000ドル近く稼いで手取りは約4,000ドル、所得税を800〜900ドル支払った計算になる。
申請の結果、そのうちの420ドルほどが還付されることになった。帰国後、郵送されて来た小切手を銀行で両替すると3万円ちょっとになった。既に大阪に出て来ていて何かとものいりな時期だったので、この臨時収入は大きかった。
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次回は生活の様子について。