000年5月9日公開/2001年6月10日加筆・訂正



ある晴れた日曜日の昼下がり、街のショッピングモールに行った。

日曜日はほとんどの店が休みだから、
レンガ敷きの小ぎれいな舗道を通り過ぎる人影もまばらだった。

モールの真ん中の広場の噴水の脇。

少年がトロンボーンを吹いている。

足元には楽器のケースが、開けて置いてある。

バスカー(大道芸人)の典型的スタイル。

バスカー自体は珍しくはないけれど、
こんなに人通りの少ないところで演っているのは珍しい。

と思って見てみると、まだ12〜13歳くらいの少年だった。

中学校の体操服を着た細面の少年。

緊張した面持ち。

暑さの所為かそれとも照れの所為か、紅潮した頬。

額には汗が滲んでいた。

その少年を、広場の隅の方から、1人の男が見守っている。

腕組みをして。

たぶん父親だろう。

その眼差しは、少年の拙い演奏にも動じることが無い。

いいなぁ、こーゆーの。

いろんなイメージが浮かんだ。

お世辞にも達者ではないけれど、一生懸命演奏する少年。

人通りの少ない日曜日を選んでるし、
表情からもかなりの緊張が見て取れる。

きっと今日は初舞台にちがいない。

そして、少年から少し離れたところから見守っている父親。

この距離が、父子がそろそろ親離れ子離れの微妙な時期に
さしかかっていることを暗示しているようで、おもしろい。

父子は今日、帰り道の車の中でどんな会話をするだろう?

(絶対に車で帰るにきまってるのだ、田舎だから)

少年はまちがいなく今夜の食卓の主役だな、

きっと少年は、今日のこの初舞台のこと、一生忘れないだろうな…
とかなんとか。

とにかくこの父子に、なんだかすごく「健やか」なものを感じて気分が良かった。

この父子の背後に、一個の幸福な家庭を想像し得た自分が、とても嬉しかった。

良い日曜日だった。

<おしまい>