2004年08月25日公開
10時前にチェックアウトして荷物を預け、ロビーの両替所で50ドルだけ両替してからベルニサッシに土産を買い足しに行く。平日だからだろうか、入場料は取られなかった。
さすがに平日の朝だけあって、開いているお店も少なく場内は閑散としている。それでも何軒かはすでに商売を始めていたし、あちこちでお店が開き始めていた。
時折小雨の降る中、昼前まであれこれ買い物してからホテルに戻る。
13時半にロビーでトランスファーと合流し、シェレメチェヴォT空港に向かう。
折から激しく降りだした雨の中を、思いっきりトバしている。横目でメーターを盗み見ると「0km/h」だ。壊れてるし…。
私の視線に気が付いたのか、運転手の兄さん、左手でハンドルを操りながら右手をグローブボックスに伸ばすとヒューズを取り出した。
そのまま右手でダッシュボードについたカバーを外しヒューズを差し込む。メーターの針が動くようになった…。
この間もずっと、大雨の降る中、他の車と抜きつ抜かれつしながら左手で運転を続けていたのだから、助手席の私にはまったく冷や汗ものだった。
かくして小1時間で空港に着くには着いたが、いや実際、これで事故を起こさないのは「腕」より「運」じゃぁないのか…と。
シェレメチェボTは主に国内線の便が発着する空港だ。帰路はウラジオストクまで国内線で行き、ウラジオストクで関空行きの国際線に乗り換えることになっている。
私が「帰国するのだ」と言ったので、運転手は気を利かせてくれたのか、ターミナルの一番端にある国際線ゲートの前で下ろしてくれた。
私もうっかりそのまま国際線のゲートに向かいかけたが、
「ちょっと待て、ウラジオストクまでは国内線だぞ」。国内線のカウンターの方を見ると、そこには旅行者が長蛇の列を成していた。
とりあえず列の最後尾に並んだ。
電光掲示板を見ると、私が予約した時刻にウラジオストクに向けて出発する便は確かにある…が、便名が微妙に違う。「XF-360」のはずだが「DD-360」と表示されている…本当にここに並んでいて大丈夫か?
20mほど離れたところに案内所がある。聞きに行ってみるか…いや、しかし、今、列を離れてしまって結局ここで良かった場合、並び直してたら間に合わないかも…思いっきり不安になってきた。
この行列の先では荷物のセキュリティチェックが行われていた。まずは航空会社ごとにチェックインカウンターがあるものだとばかり思っていたら、そうではないらしい。
ちなみにこの出発ロビーの入り口でもX線による荷物検査をしていた。それほどまでにセキュリティを厳重にしなくてはならないお国柄…陸続きの連邦内で内戦を抱えていることや、数年前にここ、首都モスクワで起きた人質・占拠事件の記憶も新しいことを考えれば、実際のところ、依然、「準戦時下」と言っても良いのかも知れないな、現在のこの国は。
ともあれ、ようやく荷物検査をパスすると、電光掲示板に表示されていた番号のチェックインカウンターに進む。
ここで受け取った搭乗券に「ウラジオストク航空」と印刷されているのを見て、ようやく安堵のため息をついた。どうやらこれでウラジオストクまでは行けるらしい。
待機ロビーに行ってからは30分と待たずに搭乗開始となった。再びのツボレフだ。
それにしても、空港が混雑していたこともあってかなり焦った。
トランスファーはチェックイン開始時間に合わせて空港に着くように手配されているようだが、時間に余裕をもって空港に着きたい場合には現地で手配した方が賢明かも知れない…と思った。
搭乗後、英語の機内アナウンスを注意深く聞いていると、この機は途中「アバカン」という街に寄るらしい。
そういえば搭乗ゲートでも「アバカン行き/ウラジオストク行き」と併記されていたな。
小雨の降る中、シェレメチェヴォTを離陸。さらばモスクワ。
やはりチェックインが遅めだったのか、座席は最後尾に近い。尾部のトイレに近いのは好都合だったが。
機内はほぼ満席だ。国内線だけに外国人らしい乗客は見当たらない。
座席や空調のぼろさに関しては往路便で述べた通りだが、トイレもやはり例外ではなかった。壊れて水が流れなくなったのを乗務員が直していた…。
モスクワ時間で21時前、アバカン空港に着陸。ここでストップオーバー。
1時間ほど空港のロビーで時間を潰せと言われる。タラップを降りて徒歩で駐機場を横切り、滑走路の脇の作業員の通用口のようなところから外に出された。他の乗客の後ろを付いていくと、空港のロビーだった。
アバカンという都市がロシアのどの辺になるのかは知らないが、東に向かっている以上、現地時間はもっと遅いはずだ。24時くらいではないだろうか…。
当然、夜中の空港は静まり返っていて、ロビーの照明も最低限まで落とされていて薄暗い。私同様、ストップオーバーの乗客がロビーのあちこちでベンチに腰かけている。
大丈夫だろうとは思う。まさか知らないうちに別のところで搭乗手続きがされていたりなんてことはないと思う…しかし、一方で乗客が1人くらい足りなくても時間になったら出発されてしまうんじゃないか、そんな心配もあった。なにしろロビーから見える範囲にはチェックインカウンターや搭乗口らしきものがまるで見当たらないのだ。
売店で水を買おうとしたところ、「ポケット路線表」のようなものが目に留まったので購入。
幸い、と言うか当然だが、1時間ほど待ったところでロビーの隅の両替所の脇の、何の変哲もないドアが開き、再搭乗の手続きが始まった。
搭乗券の半券とパスポートを出すが、こちらはノーチェックだった。ウラジオストクから先のチケットだけチェックされた。手荷物検査ではデジカメだけ「これなに?」と質問された。
モスクワ時間で23時前に離陸。
結局、アバカンには2時間ほど停まっていたわけだ。
アバカンを離陸後、リラックスに努めたのだが全然寝付けなかった。気が付くと機窓の外では空が急激に白み始めていた。
食べ物の匂いに目を開けると既に朝食が配られ始めていた。
考えてみれば、実際の時間経過に加えて、時差の調整で7時間一気に時計を進めるんだもんな。そりゃ夜明けも急激に訪れようと言うものだ。
ウラジオストクに到着。雨。
関空行きの便の出発までに2時間しかない。シェレメチェヴォの轍を踏まないよう、なるべく早目々々に動くことにした。
しかし、せっかく急いではみたものの、機内預け荷物のピックアップが始まるまで30分ほど待たされた。
受け取り場では、ターンテーブルで流れてくる自分の荷物をピックアップすると、出口で係官のチェックを受けた。
シェレメチェヴォTのチェックインカウンターで手渡された預け荷物の引換証の番号と、荷物に付けられた番号が照合された。これなら他人に間違えて(または故意に)持って行かれることもないだろう。
ロシアの国内線では機内預け荷物からの盗難や荷抜きが横行しているとかで、実際、乗客の中には荷物全体をビニールシートでグルグル巻きにしたり、バッグのジッパー部分にガムテープを貼り付けたりといった自衛策を講じている人もたくさんいた。
私はジッパーに旅行用の簡単なダイヤルロックをかけただけだが、幸い盗難にもあわずに済んだ。
荷物をピックアップすると隣りの国際線ターミナルに移る。
ロビーには免税店が2軒あり、幸いキャビアも売っていた。国内線ロビーの売店にも売っていたが、値段は変わらないようだ。
大116グラム900ルーブル・小90グラム500ルーブル。家族へのお土産だ。
出発までちょうどあと1時間ほど。さっさと搭乗手続きを済ませてしまうことにした。
まずは税関。機内預け荷物と手荷物をX線検査機に通す。
私の荷物のスケスケ画像を横目で見ながら、係官が日本語で
「オミヤゲ、アリマスカ?」と聞いてきたので、
「チョールナヤー・イクラー。200グラム。レシートもあるよ」と、ロシア語英語ちゃんぽんで答える。
「チョールナヤー・イクラー」というのはいわゆる「キャビア」のことだ。1人あたりの持ち出し量は280グラムまでと規制されており、購入店のレシートも必要だ。私はすぐそこの免税店で買ったのだから当然パスする。
入国用、出国用計2枚の税関申告書もここで回収され、税関はクリアとなった。
念のため所持金を正直に記入しておいたが、ほとんど右から左、いちいち吟味はしていなかったように思う。
続いてイミグレーション、次にチェックイン…と、ほとんど流れ作業。
航空券を手渡すと引き換えに搭乗券を渡される。機内預け荷物は16kgほど。行きより2kg近く重くなっている。お土産もあるし無理もないか。
その次のパスポートコントロールで出国カードを2枚とも回収された。
最後にもう一度手荷物をX線検査機に通し、ボディチェックを受ける。
ここでも女性の係員にデジカメを「なにこれ」と聞かれた。アバカンの時と同様、「カメラです」と言って電源を入れてみせると納得した様子。
やれやれ、これでようやくロシアを出ることが出来るわけだ。
階段を上がると待機ロビー。ここにも免税店とスナックが買えるバーが1軒ずつある。
コーヒーでも飲もうと思い値段を聞くとバカ高い。40ルーブルほど残ってしまった現金をここで遣い切ってしまうつもりだったのだが。
本当は国外へのルーブル持ち出しは禁止されているはずなのだけど、税関でも没収されたりしなかったので…それどころかチェックさえされなかったので…。
出発時間が近付くにつれ、待合室はだいぶ混みあってきた。日本人乗客が圧倒的に多いようだが、欧米人の一行もにぎやかい。ボーディングバスに乗って搭乗。
搭乗券を見ると「9C」とある。前の方の席だな、と思ってキャビンに入ると、なにやら往路やモスクワからの国内線とは雰囲気が違う。
シートも新しいだけでなく、心なしか幅も大きく、シートピッチも長いような気がする。シートの物入れには機内誌まで置いてある…どうやらビジネスクラスのようだ。
そう言えば待機ロビーで他の乗客の手元を見ると、紫色の搭乗券が多かった。
しかし私をはじめこのキャビンの乗客は水色の搭乗券を手にしている。最後の最後に恵まれたようだ。
ウラジオストクを離陸する。
今度こそもう安心だ、大丈夫だ、と思うや否やものすごい安堵感に包まれた。
肩から二の腕、背中全体にかけて、疲労感が一気に滲み出すような感覚。それだけこの15日間、緊張していたのだなぁとしみじみ実感した。
さらばロシア。また会う日まで。
おしまい