2004年08月25日公開
明け方、喉の渇きに目を覚ました。いつのまにかぐっすり眠り込んでいたらしい。
ふと見ると後から乗った女性2人の寝台がもぬけのカラになっている。途中のどこかの駅で下車したのだろうが、全然気が付かなかった。
トイレのついでに思い立って濡れタオルで体を拭ってスッキリする。寝台に戻ると寝なおし。
ウルシャ(7209km)〜エロフィ–パヴロヴィチ(7111km) の沿線は車窓の風景が良いのだそうで、通過予定の時間帯ならば夜も空けていて十分に楽しめたはずのところを、寝坊してしまった。残念。
エロフィ–パヴロヴィチ通過後、モスクワから7075kmの地点で極東・シベリア境界を越える。これで列車は正式にシベリアに入ったことになる。
アマザル(7004km) に現地時間10時頃に到着。ここでの停車は20分だ。
ホーム脇のスタンドでは地元の住民がさまざまな商品を持ち寄って、列車の乗客相手に商売をしている。自家製のパンや惣菜、野菜、果物、菓子、蒸かしたジャガイモも美味しそうだ。各種のドリンク、煙草に生活雑貨や雑誌なども売られている。
他の乗客も皆、私同様ここで朝食を調達するつもりらしい。おかげでちょっとしたマーケットのような活気で、どこも売れ行きは好調のようだ。
今日も昼食は食堂車で摂るつもりだったので、「ペリメニ」(ロシア風水餃子)を8つだけ買った。列車が動き始めてから持参したトマトスープと一緒に朝食にする。
水餃子というからには、具はひき肉なにかだろうと思って食べてみると…中はピューレしたジャガイモだ。
ペリメニに似て、具をさまざまなものにした「ワレニキ」という料理があるそうだが、多分これがそうだろう。
それにしてもジャガイモか…炭水化物の塊だな。ほのかにスープの味が付いていて、味付けしなくても十分美味しい。
食後のコーヒーを淹れて外の風景を眺める。今日もいい天気だ。相変わらずの平原が広がっている。行けども行けども、平原ばかり。
モゴチャ(6906km) に到着。これまで通過した沿線の街の中ではかなり大きな方だろう。
中年の女性が2人、乗り込んで来た。2人ともイルクーツクまで行くらしいので、これであと1日、このコンパートメントには人の出入りがないわけだ。ちょっとホッとした。
クセニエフスカヤ(6799km)での短い停車後、予定通り食堂車で昼食。
昨日の反省から、今日は会話帳もメモ帳も持って行った。なんとか昨日と違うものを食べようと勇んで会話帳を開き、あーでもないこーでもないして、なんとかメインディッシュに鶏肉をオーダーすることが出来た。
そして、ビールだ。これも昨日の反省から、ロシア語で「冷えたビール」と伝えると、すぐにちゃんと「冷えたビール」が!学習の甲斐があった!やっぱりビールは冷えてないとなぁ。
メインディッシュは鶏腿肉を蒸したもの。とても柔らかく、小骨までバリバリと食べることが出来た。サリャンカと黒パンも相変わらず美味しい。今日はこれだけ食べて300ルーブル。
例えば今日の朝食のペリメニなどの値段から考えれば、食堂車での食事にかかる金額は法外と言って良いだろう。なにしろホームの物売りから買った食料だけでまかなうなら、300ルーブルあれば楽々2〜3食は食えるだろうから。
しかし、単純に1ルーブル=4円と考えても、1200円前後でビール付きの豪華なランチが楽しめるとあれば、決して悪くはない。
コンパートメントに戻り、寝台に上がって食休み。
今日は朝から列車の左右どちらとも気持ちの良い風景が続いている。
時折、農場跡のような平地、柵や大きな建物の遺構などが現れては後方にすっ飛んでいく。
暇に任せてすれ違う貨物列車の貨車数を数えてみると、時には重連の機関車が60両以上の貨車を牽いていることもあった。
タンク車とすれ違う時は油の匂い、材木を満載した貨車とすれ違う時は木の匂いが車両の隙間から香って来た。
昨日、コンパートメントの窓が開くことが分かってからは、20cmほどの隙間からレンズを突き出すかっこうで沿線の風景をかなり撮っている。
また、トイレ前や通路に数箇所ある引き下げ窓からも結構な枚数を撮った。
撮れども撮れども景色が変わらないので好い加減なところで切り上げたが…。
モゴチャから乗ってきた2人にお茶をおよばれする。2人が食べている「シェーミチキ」という、ひまわりの種を炒ったスナックを盛んに勧められた。これといって味があるわけではないのだけど、香ばしくて美味しい。
指さし会話帳や憶えてる限りのロシア語、英語を駆使して話したところによれば、ナージャさんはロシア鉄道省の通信関係の技師で、休暇でイルクーツクの娘さんのところに遊びに行くところだそうだ。
一方、タティアナさんは会社員らしい。こちらも休暇で、列車を乗り継いで最終的にはトルコのイスタンブールまで行くのだと言う。
英語がかなり堪能らしかったが、どちらかと言うと寡黙な女性で、おしゃべりはナージャさんまかせ、といった感じだった。彼女は明日、ウラン・ウデで下車するそうだ。
小1時間も話したろうか、やはりお喋りは楽しいものだ。
チェルヌィシェフスク(6587km)で25分の停車。
ホームに警官がたくさんいるし、乗客らしき若い衆が所在なさげにたむろしている。昨日の今日なので写真撮影は控えて、夕食の買い出しに留めた。
ちょうど大判焼きくらいの大きさ、かたちをしたパンを3つ買った。本当は2つ買うつもりでいたのだけど、ちょうど最後の3つだったので「そんなこと言わんと全部買ってって!」みたいなことを言ったらしい、売り子のおばさんに押し付けられてしまった。24ルーブル。
食べてみると、予想に反して非常に甘い…ちょっと酸味もあって美味しいことは美味しいのだけど、お菓子みたいだな。ちょっと失敗。
クエンガ(6526km)の辺りから線路の南側に大きな川が併走するようになった。シルカ川だ。
Lonly Planet "Trans-Siberian Railway"によると、この辺りで河畔近くに古い教会の建物が見えるということだったので、カメラを構えて待機する。
やがて教会の廃墟が現れた。しかも2つだ。ズームレンズを望遠側にして立て続けにシャッターを切る。上手く撮れているといいのだが…
白樺の木が強い西日に映えて鮮やかだ。上半身裸でサイドカーを駆る若者、川辺で水浴びする子供達…20時を回ってもまだ日は高く、シベリアの短い夏の長い一日はのどかにゆっくり暮れていくらしく見えた。
やがて23時頃、ようやく逢魔ヶ刻という頃に タルスカヤ(6312km)を通過した。南方に分岐していく線路は、中露国境を越え満州里を経て北京に至る国際路線だろう。暗緑色とオレンジに色分けされた列車が南下していくのが見えた。
カルィムスカヤ(6295km) で下車し、売店で水1リットルを購入した。
水と言えば、昼間、水が無くなったので車掌から買うことにした時のこと。
11ルーブル50カペイカ、というので、51ルーブル50カペイカ渡して釣りを40ルーブルちょうどもらおうとすると、「なに?小銭ないの?」と半分怒ったように言われた。
だ・か・ら!こっちも気ィ使って釣りが10ルーブル紙幣4枚で済むようにしてんだろがっ!
しぶしぶ10ルーブル紙幣3枚と1ルーブル硬貨10枚で釣りをよこした。
基本的に釣りのたくさん必要になる支払い方というのは歓迎されないらしい。
列車のように車掌も小銭を調達しにくい環境だから、というだけでなく、街中でも特に小さな売店やホームの物売りにはそんなケースが多かったし、同じようなことが旅のはじめから終わりまでしょっちゅうあった。
基本的に小銭を常に多めに手元に持ったおいたほうが良い、ということのようだ。
もうすぐ日付も変わるしそろそろ寝ることにしよう。
ナージャさん達のおかげもあって、ようやく旅の調子が出てきた感じなのに、明日で一旦ロシア号とはお別れしなくてはならないのだ。